コウタローが泣いた

コウタローが泣いた。過去に起きた出来事を年ごとに振り返るというテレビ番組の中で、フォーク歌手の山本コウタローがカメラの前で絶句した。今回は「一九六九年」がテーマで、ベトナム反戦運動が激化していた当時、東京新宿駅西口構内で盛りあがった「新宿フォークゲリラ」を取り上げていた。当時の映像を見た後、自らギターをつま弾き「友よ」を歌い終わったコウタローが突然、涙を流した。「あの時『夜明けは近い』と歌ったけれど、ちっとも時代は変わらなかった。結局僕らはこんな社会しか作ることは出来なかった…」と悔いながら。
 その姿をスタジオで見ていた同じ時代を体験してきた「ゲージツ家・クマさん」こと篠原勝之は「泣くことはないだろう。俺たちは俺たちのやり方でずっと戦ってきたのだから」と優しさを込めた言葉でコウタローを叱った。
 新宿西口でのフォーク集会のことは今でも覚えている。よくデモ集会からの帰り道、西口にあった通称「ションベン横町」の食堂で鯨カツ定食を食べるのに、新宿駅に立ち寄った。そんな時いつも、駅構内からはギターをかき鳴らす音と大勢の歌声が聞こえていた。当時、若者の街は渋谷ではなくて新宿だった。
 あの頃、わたしたちは明治生まれの頑迷な父の世代に反抗し、しきたりと慣行と従順ばかり強いてくる大人や世間に異議を唱えた。そして、権力になびき、権威に媚びるような自己保身だけのつまらない大人にだけは決してなるまいと思った。
 あれから四十年。新宿駅西口は「広場」から「通路」と名を変え、かつてそこでフォーク集会が行われた面影はない。自分たちはこんな世の中を目指してはいなかったというコウタローの忸怩たる思いは、多少たりともあの時代を体験した者にはよくわかる。それは「全共闘世代」と一括りにされるわたしたちの世代の不甲斐なさのせいでもあるからだ。だが、だからこそ、そのことを悔いるのではなく、クマさんが言うようにひとりひとりが「現在をどう生きているのか」が大事なのだ。自ずからその姿の中に個々の責任の取り方が表れてくるのだから。
 そして、まずは自らに問うてみるのだ。四十年前に「大人を信じるな!」と叫んでいた自分がいつの間にか、かつて否定していたはずの「つまらない大人」になってしまってはいないのかと。

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