1,国際的寺町

亀井勝一郎、長谷川海太郎、久生十蘭・・・





 





              


 
元町文学地図
 世界中の宗教が私の家を中心に集まっていた・・・。   
「わたしの家のすぐ隣りは、フランスの神父のいるローマカトリック教会堂である。その隣り葉、ロシア系のハリストス正教会である。この二つの会堂は、各々さ五十メートルほどの塔を持っているので、船で港へ入るとすぐ目につく。ハリストス正教会の前には、イギリス系の聖公会があり、やや坂を下ったところにはアメリカ系のメソジスト教会がある。私の家は浄土真宗だが、菩提寺たる東本願寺は、坂道をへだててわが家の門前にある。また同じ町内の小高いところには、この港町の守護神である船魂神社が祭られ、そこから一直線に下ったところには、中国領事館があって、ここは道教の廟堂を兼ねていた。要するに世界中の宗教が私の家を中心に集まっていたようなもので、私は幼少年時代を、これら教会や寺院を遊び場として過ごしたのである。幼い私は宗教的コスモポリタンであった。」                   
(亀井勝一郎「東海の小島の思い出」)      
1910〜20年代の函館
 長谷川四兄弟(海太郎・りん二郎・ 濬・四郎 ) 久生十蘭、水谷準、亀井勝一郎など、後に文学 者として名をはせる若者たちが、この函館の元 町界隈を闊歩していた。
作品の中に現れる国際性、コスモポリタン的な雰囲気は、江戸末期から海外に門戸を開いていたこの街であったからこそ、生まれてきたにちがいない。